2018年8月2日(木)。今夏も、県立釜石高等学校の2学年理数科の皆さんが、大気海洋研究所にいらっしゃいました。釜石高校は、文部科学省が科学技術や理科・数学教育を重点的に行うとしたSSH(スーパーサイエンスハイスクール)指定校です。昨年に引き続き、教育活動の一環として柏キャンパスの研究施設で見学・研修が行われ、大気海洋研究所では今回、杉原奈央子学術支援職員による「貝殻が記録する沿岸環境の変化」の講義を聴講していただきました。
「研究者って、どんなことをやっているの?」というお話に始まり、「津波後に海の環境がどのように変わったのか?」「復興の過程でどのように変化するのか?」など、二枚貝を利用した環境モニタリングを行ってきた研究をお伝えしましたが、高度な解析技術を用いて分析していることをご紹介すると、学生さんたちは画面を熱心に見ながらペンを走らせていました。
貝殻には、潮の満ち引きによって“成長線”が刻まれます。海の環境を過去にさかのぼって調べたい時、この成長線の幅や貝殻に含まれる“元素濃度”の変化を調べることで「いつ」「どんな」環境変化が起きたのかを調べることができます。津波による海の環境変化や汚染の状況を知る手がかりとして、杉原さんたちが注目したのは、マンガン。通常の海水中にはあまり含まれませんが、堆積物や陸の土壌中に多く存在する重金属です。 大槌・釜石・大船渡などの観測結果を示しましたが、場所によっては、津波で防潮堤が壊され湾内の海水交換が良くなったためか、津波前より、濃度が低下していたところもありました。また、リアス式のような入り組んだ海岸ではない相馬などでは、濃度が津波前後であまり変わらないという結果も出ていました。 地域によって海岸線も異なり、山や川と海のつながりなどに、特性があります。こうした研究の結果が、これからの街づくりや自分たちの将来を考えていく若いみなさんの、何か手がかりとなったらいいなと思いました。
講義の最後には、「研究」と「勉強」の違いや、「いろんなことを疑問に思って、いろんな場所でいろんな人に出会って、たくさんの経験をして下さい」、という杉原さんからのメッセージがありました。みなさんが感じる「不思議」の芽が伸び、花が咲く、そんな日を楽しみにしています。(S.W)
当日の講義では、ビノスガイの年齢クイズが出題されました。
問い:「AとB、どちらの貝が長生きでしょう?」
解析の結果が出るまで、答えはおあずけでしたので、ここに結果をおしらせします!
答え:B (先端に密に成長線が入っており、本数が多くなっています)
写真1:「どちらの貝が長生きかな?」の質問に、鋭い洞察力で答えてくれた生徒さん 写真2:貝の切断。このように行います 写真3:分析にかけられる状態に処理したビノスガイの断面(上がA、下がB) 写真4:ビノスガイAとBの先端部を電子顕微鏡で見た画像 |