海洋物理学の研究者を目指す若い人たちへの推薦図書(教科書) 初版2014.03(その後随時追記)
最近ときどきこういうことを若い人たちへ伝えておいた方が良いかな、と思うほどの年齢に私もなったのかもしれません。
海洋環境や海洋生態系およびそれらが関わる分野の研究が盛んになる中、海洋環境・生態系の土台を決定づける海水の流れ(海洋循環)の勉強の重要性は一層高まっていると言えます。
書籍数が少ない一昔前は、定番と言われる優れた教科書を見つけることはそれほど難しくなかったのですが、情報過多の今はどの本がどのように優れているのかをすぐに判別することが少し難しくなったかもしれません。私の独断と偏見で選んではいますが、もしどなたかの役に立つことが有ればと、ふと思った機会に書き留めました。
A. 一番薦める教科書
(1) 「地球流体力学入門 -大気と海洋の流れのしくみ (気象学のプロムナード 第 13)」、木村竜治、東京堂出版
(2) 「気象力学通論」、小倉義光、東京大学出版会
(3) 「沿岸の海洋物理学」、宇野木早苗、東海大学出版会
【コメント】
この順番で読んでいくと分かり易いと思います。
(1) は地球流体(回転する球上に密度成層する大気や海水)の力学の奥深さを、とても分かり易く書いています。(2) はその数理的な裏付けを更に丁寧に書いています。地球規模くらいの大きなスケールでは大気力学と海洋力学は共通する点が非常に多く、(1) (2) とも気象の先生が書かれていますが、大規模な海洋循環(黒潮や深層循環流)についても詳述されています。(3) は (1) (2) では扱わない小さいスケールの(と言ってもコリオリ力は重要な)、沿岸海洋特有の海洋力学の教科書です。
(1) (2) は今では入手しづらくなってしまいましたが、現在でも十二分に通用する内容のままです。(3) も含めて個人的には、今でもこれらを超える名著は無いと思います。大きな大学の図書館には必ず有ります。
B. (1) - (3) より先に読んでも良い教科書
(4) 「一般気象学」、小倉義光、東京大学出版会
(5) 「海洋の波と流れの科学」、宇野木早苗・久保田雅久、東海大学出版会
(6) 「Ocean Circulation」、Open University、Butterworth-Heinemann
【コメント】
(1) - (3)は数式が多いので、もう少し数式の少ない教科書を読んで予備知識を入れておきたいという人に薦めます(私もそうしました)。
C. 海洋物理学全般を日本語で概観できる教科書
(7) 「地球環境を学ぶための流体力学」、九州大学大学院総合理工学府大気海洋環境システム学専攻、成山堂書店
(8) 「海洋物理学概論」、関根義彦、成山堂書店
(9) 「海洋の物理学」、花輪公雄、共立出版
【コメント】
いずれも平易に書かれています。上記の本と同時に読むと相乗的と思います。
D. 更なる勉強のために
定番中の定番
「Atmosphere-Ocean Dynamics」、Adrian E. Gill、Academic Press
「Geophysical Fluid Dynamics」、Joseph Pedlosky、 Springer
「Descriptive Physical Oceanography: An Introduction」、Lynne D. Talley・George
L. Pickard・William J. Emery・James H. Swift、 Academic Press
私の本棚の中から比較的最近の読み易そうなものいくつか
「大気・海洋の相互作用」、鳥羽良明、東京大学出版会
「メソ気象の基礎理論」、小倉義光、東京大学出版会
「総観気象学入門」、小倉義光、東京大学出版会
「Introduction to Geophysical Fluid Dynamics」、Benoit Cushman-Roisin・Jean-Marie
Beckers、 Academic Press
「Ocean Circulation Theory」、Joseph Pedlosky、 Springer
「Regional Oceanography: An Introduction」、Matthias Tomczak・J. Stuart
Godfrey、 Daya Publishing House
「Introduction to the Physical and Biological Oceanography of Shelf Seas」、John
H. Simpson・Jonathan Sharples、Cambridge University Press